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これって病気?④大人の発達障害~症状から相談方法まで~

近年、成人になって初めて発達障害と診断される方が増えて来ており、注目が集まっています。通常、低年齢で発症して診断されるというのがほとんどでしたが、成人してからのものが最近とみに増えている、という事実は看過できません。その理由は、主にその人の発達障害としての程度が軽かったり、その特性を補う他の能力が高かったりすることで発現しにくく、診断もされずに来たものと考えられています。

目次

大人の発達障害とは

発達障害とは、もともと先天性のもので、生まれ持った脳の特性によるものです。良く勘違いされるように、親の育て方や環境が問題で発症するものではありません。その点は大人の発達障害も全く同じです。
ただ軽度であるために子供のころには気づかれず、就職や恋愛、結婚、といった大きなライフイベントだったり、より高度なコミュニケーションを必要とする場面などで対人関係がうまくゆかず、結果「生きづらさ」を抱えてしまう、というふうに自覚されることが多くなってきているようです。そのような「生きづらさ」を自ら自覚したり、他人から指摘されるなどして、場合によってはうつ病や対人恐怖症、不安障害などを発症し、それがきっかけで発達障害が確認される、というケースも多く見受けられるようになってきました。

診断まで

そもそも「発達障害か否か」というのは、はっきり線引きするのが難しく、大なり小なり持っているその人の特性の中から、それによる困難が積み重なることで何らかの診断が必要となり、「発達障害」という診断を受けるに至る、という具合で診断に至っている方も多くいらっしゃいます。
それは例えば、インターネットの普及と発達などから、上司や同僚・部下などと連携を取ったり、複数のタスクを並行する形で処理しなければならない必要性などが増えてきたことなどから際立ってきたもの、ということも言えるかと思います。詳しく言うと、そうした際の脳の情報処理や制御などにおけるその人の「機能の偏り」を原因として、学習や言語、行動などの各分野で不全さ、つまり「生きにくさ」を抱えてしまった状態、ということが出来ます。

こうした背景から、何かお心当たりがある場合は、まずは精神科か心療内科の門をたたいてみることが先決です。ですが発達障害を診る事の出来る医療機関はまだそう多くはないのが現状なので、お住まいの自治体の障害福祉課または発達障害支援センターなどで情報を集めたり、各クリニックのホームページなどを確認して受診先を選ばれることをお勧めします。

一般にクリニックでは医師が問診を行い、初回は成育歴などで1~2時間程度時間がかりますが、その後の通院では1回15分程度がめやすです。そして臨床心理士とも会って「WAIS」と呼ばれる検査や各種の知能検査などを受けたりします。発達障害の人は各項目のIQ値の差(ディスクレパンシー)が大きく出ることがありますが、そういった全体の能力を診たうえで診断の参考にします。通院頻度は人によって違いますが、月1~2回から週1回とさまざまです。
こうした過程を経て適切な診断が確定すると、そのひとそれぞれにとっての得意なことや苦手なことなどの特徴が明らかになり、苦手な事をカバーする工夫とか、得意な事を生かせる環境などを検討してゆく下地が出来てゆきます。

現在、産業界でも障碍者雇用の枠組みが大きく変化して来ており、発達障害の人が障碍者として積極的に雇用に結びつけられる動きが起こって来ています。そのために家族や本人の希望により「療育手帳」や「精神障碍者手帳」などを取得する人も増えています。就職先としてその内訳は、卸売・小売業とかサービス業全般が割合として多いようです。

ではここで、そうした大人の発達障害の類型について、症状ごとに詳しく見てゆきましょう。

ASD(自閉症スペクトラム症)

まず第一に発達障害の9割をしめているのがASDとADHD(注意欠如・多動性障害)の方々です。ASDだけの方もいれば、ADHDと合併した症状を示している方も多くいらっしゃいます。ASDは、いわゆる自閉症と呼ばれるものから、アスペルガー障害、またその他の広汎性発達障害と呼ばれる症状を含んで、程度の違いや症状が多岐にわたってさまざまに分布する発達障害の一つの領域を示しています。アスペルガー障害とかアスペルガー症候群は、ざっくり言うとIQ70以上の自閉症ともいわれ、知能や言語の遅れが無いタイプの自閉症、という認識になるかと思います。

このタイプの人は、反復する行動や興味や活動、といったことが大きな特性となっています。つまり興味や関心が狭い範囲に限定されやすく、行動や動作へのこだわりがあり、そのために周囲とのコミュニケーションがうまくいかずに、独特の立ち位置を示したりします。また感覚に対して敏感だったり、逆に鈍感だったりする場合があります。

具体的には、一般にコミュニケーションを要する業務や活動が苦手で、上司や同僚とのやり取りがうまくできない場合があります。例えば目上の人に友達のように話しかけたり、関心の持てない話題には進んで介入したりが出来ません。相手の気持ちを察することが苦手で、集団での会話や雑談が出来ず「空気を読む」ということが苦手です。また人の話を聞かずに自分の事ばかりしゃべってしまったり、自分なりの手順ややり方(ルーティン)に固執するあまり周囲との軋轢を生んでしまったりします。また過度な光や騒音に耐性が無く、集中するのが難しい、すぐに疲れる、といったことも起こってきます。

こうした症状に対し、うつや不安障害といった二次的な疾患がある場合を除き、特に有効な薬は有りません。ASDと診断された方は、医療機関によってはデイケアや集団プログラムを提供しているところもありますので、インターネットなどで情報を集め、利用してみることをお勧めします。

ADHD(注意欠如・多動性障害)

一方、ASDと並んで多いのがこのタイプです。注意欠如、多動性、それぞれひとつだけの場合も、両方合わせもっていらっしゃる方もいます。これは一つの事柄に集中するのが難しく、ケアレスミスを頻発する、という症状になって現れます。何かやっているうちに他のことが気になって、結果、満足に仕事を終えられない、といったことがあったり、多動性のひとは、じっとしていることが苦手で、衝動的な発言や行動を取ったりすることがあります。そして全般的に片付けが苦手です。こうした症状の場合、医療機関で処方される薬には有効なものが多いようですので、診断に合わせて利用されると良いでしょう。

LD(学習障害)・SLD(限局性学習症)

学習に関わる「読む、聞く、話す、書く、計算する、推論する」といった6つの領域を分ける時、ひとつ以上に困難がある場合です。知能に遅れが無くとも、本人が努力しているにもかかわらず、特定の領域で学習が困難な状況がみられます。たとえば算数や数学の概念、また計算を学ぶことが苦手で、図やグラフがうまく理解できない、また漢字を覚えられない、といった状況があります。SLDの方は、特に読むこと、あるいは書くことが苦手です。こういった方々は、はた目には自助努力が足りないように思われがちですが、実はそうではなく「真面目」で「表裏が無い」性格のことが多いです。ただ結果がついてこないために「努力が足りない」とか「怠け癖がある」などと勘違いされてしまったりします。

周囲が求められること

以上のような「生きづらさ」を抱えた方々に対し、その周囲の人々が配慮したいポイントとは一体何でしょうか。

まず、業務においては抽象的表現は使わず、具体的でシンプルな指示が大切です。図やイラストを用いて説明したり、ホワイトボードなどを使うなどして提示をしてゆくと、情報が伝わりやすくなり、誤解を防げます。また業務が複雑になったり、複数に絡み合うときは、優先順位をつけてあげる、などの支援が功を奏します。各タスクをスモールステップ化してゆくことも有効に働くでしょう。
感覚過敏などがあるときは、イヤーマフや耳栓の使用を認めるとか、エアコンの位置を考えて席を決めたり、オフィスの照明を絞る、などの工夫も効果的に作用します。気が散りやすいひとには気が散りにくい座席の設定や、棚やデスクに工夫をしたりすることが助けになる場合もあります。

一般的に言えることは、それぞれの人に苦手で困難を伴う領域があったとしても、逆に条件さえ揃えば、まじめにコツコツと働くことが出来る、といった風に得意な領域もありますので、それらを早く見つけ、得意分野で積極的に使うことで業務全体に必要な情報を獲得していけるようにすること、伝達したりすることが容易にできるような配慮をしてゆくことなどが、随時求められてゆくでしょう。

総じていえること

以上のように、多かれ少なかれ困難さを抱えた発達障害の人は、他の人になかなか相談できず、ひとりきりで抱え込んでしまう傾向も強いといわれます。気分の落ち込みや不安から、ココロの症状を合併させてしまうことも往々にしてありますので、ストレスに対するケアが出来る体制づくりが重要といえるでしょう。
本人自身の心がけとしては、誰かに聞くとか、相談する、助けを求める、といった発想を常に持って、自ら習慣化させるよう心掛け、行動してゆくことが大切です。

また自ら改善できる点も探せば多くある筈で、例えば自分で気を付けているつもりでも不注意で忘れてしまうことが多いなら、忘れる前提でメモやTO DOリストを残していく、とか、約束の時間に遅れてしまいがちならスマートフォンのアラーム機能を利用するなど、工夫できることを探していろいろ試していってみると良いでしょう。

就労支援

たとえば「働きたい」という気持ちはあるものの、様々な悩みや不安を抱えるために一歩踏み出せないで困っている人には。「障害者総合支援法」に基づく「障害福祉サービス」の一環として、トレーニングや就労移行支援、定着支援などを実施している機関もあり、ところによってはハローワークへの同行などを行っているところもあります。こうした機関が運営する就労移行支援所などを利用して、専門のスタッフによるサポートを受けながら、コミュニケーションスキルの向上やリフレッシュ方法などを覚えたりして、社会へ出るための計画を立ててゆく、という方法も開けて来ています。

そしてこれらの機関での活動などでは、「悩んでいるのは私だけじゃなかった」と知ることで同じ立場の人たちと共感し合え、そのことで良い結果が生まれてくることが多々あります。大切な事は、人それぞれに悩みごとは違えど、診断によって自らレッテルを貼ることではなく、抱えている悩みの理由を知ることで、個々の困りごとに具体的な解決の道筋をつけ、今抱えている「生きづらさ」を減らしてゆくことではないでしょうか。

展望

このように見てゆくと、大人になって発達障害を診断された方には自己評価の低いひとも多く、こうしたタイプのひとは、小さな成功体験を、数多く積み重ねてゆくことが大切なステップです。とかく大きな目標を掲げると失敗とつながりやすくもなり、挫折感を味わうことにもなりかねません。まずは目標を細分化し、小さな達成感を数多く味わい、その体験を積み重ねてゆくことで、徐々に、そして確実に自尊心を高めていくことが望ましい在り方です。そのようにして周囲のひとからの協力も得ながら、一歩一歩を着実に進めていっていただく努力は何にも増して大切かと思います。

ご自身の努力と、周囲の協力。必要な支援や助言を絶えず行い、温かい目で見守っていただける方々のいる環境があれば、よりスムーズな未来は開けてくることかと思います。社会は持ちつ持たれつ、の関係です。決してどちらかがどちらかに依存するのではなく、両者が生き生きと円滑に活動出来て初めて、ウインウインの関係が築けるものです。どうかこのことを忘れす、発達障害の人も、その周囲の環境となる人々も、日々、努力と協力を惜しまずに毎日を重ねて行っていただけたら、と思います。

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